『百忍百謝』
耐え忍ぶことと感謝することが大切だ


 日本経営道協会は味の素の歌田勝弘元社長に発起人となっていただき、長い間支援を受けてきた。歌田は鈴木家の同族経営路線から初めて生え抜きの社長に選ばれた人物である。歌田が社長を引き継いだ時、鈴木前社長から「百忍百謝」という言葉をいただいたという話を聞いた。百忍百謝とは百回忍んで百回感謝せよ、つまり「多くの我慢と多くの感謝の心が何より大切だ」ということだ。
 三郎助の苦難の語録を紹介しよう。
 「今度の〝うま味〟は、いままで誰もやったことがない。世界ではじめてであり、その製造も販売も容易な業でない。……入念に他の調味料とも比較し、あらゆる角度から試験をしました。各方面の人々をも招いて試食してもらったり、(中略)多くの知人の意見や批判をも徴したり、いろいろな方法で実地試用の研究をかさね、将来見込みあるものという見解に達しました」
 「本発明の実施(製品化)に着手したるも、その遂行は予想以上に困難をきわめ、ことに我が国において創始せられたる工業なるを以って範を示すべき、先進の向上も技術も共に存ぜざりし故にその苦心筆紙に尽くし得ず」
 まさに鈴木の「百忍」し、味の素を生み出したドラマを表している言葉である。


【プロフィール】
鈴木 三郎助(すずき・さぶろうすけ)1867年生まれ。
うまい味を大量製造することに苦闘し、また販売においても血のにじむような思いで今日の味の素の基盤や社風をつくりあげた。