うそをつかなければならない
ような経営は心から慎め


 「企業の大小の問題ではない。長い間には、たとえ一時逃れとわかっていても、嘘をついて、その場をおさめたい時もあるだろう。しかし、それはしょせん、一時しのぎの手段でしかない。いや、そのために、後々になって、思いがけない障害を招くかもしれない。逆に正直でさえあれば、余計な“つくろい”をしなくてすむだけでも、いいではないか」
 「人間はいつ、いかなる時でもまじめに生きねばならぬ」と杉山は強調し続けている。「もし駆け引きのない正直な経営が世の中に認められれば、会社の繁栄はまず、間違いなかろう。しかし、その前に経営者自身が正直であるべきだ。そしてだれにも信頼される人物になることである。言うはやすく行うは難しであるが、この信念こそ、経営者の金科玉条とすべきことではないだろうか」
 近頃の日本には不誠実な商売がまかり通り、商人の道を踏み外した事業家も時々見受ける。
 また才に走り、テクニックを使うのは上手であるが徳のない(不徳な)企業家も多い。杉山の語るように、今日の時代こそ正直商売、信頼経営に引き戻すことが大切である。


【プロフィール】
杉山 金太郎(すぎやま・きんたろう)1875年生まれ。
豊年製油は鈴木商店の有力事業であった。経済恐慌の影響を受け銀行の手に渡り、苦境に立った会社を要請により社長を引き受け、立て直した企業家。