女はどうしても情に流されやすい、特にこの点には注意しなさい
軽々しい情は相手をかえって不幸にすることがある
目先にはとらわれず、一歩先を見て、暖かい知性で物事を判断するように


 右の言葉は、夏目漱石の「知に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」からヒントを得たもののようだ。佐々木はこだわりの少ない寛大な心と、温かい知性を好んだ人物だったようだ。
 佐々木の発想のユニークさは素晴らしい。当時は大阪の船場商人の服装は着物に前掛け姿だった。佐々木の店だけは洋服を着て、ハイカラなお店として評判になったという。驚くことはこの時代に週休制を採用したという。たぶんレナウンは日本初の週休制導入の企業といえよう。
 当時イギリス皇太子が訪日した時のお召艦が巡洋戦艦「レナウン号」であり、その水兵は金色のRENOWNとしるされたしゃれた文字の帽子をかぶっていた。
 佐々木は「そうだ。これを商品名にしよう」とひらめいたという。佐々木の宣伝法や、マーケティングセンスは抜群だったといえよう。
 CMソングの全盛期時代には服部正、三木鶏郎らに依頼していくつかCMソングをつくり女性の心を明るくリードしている。その中でも一世を風靡したのは小林亜星作詞・作曲の「ワンサカ娘」。「ドライブウェイに春がくりゃ」ではじまる軽快なメロディーは大好評であり、以来二十年にわたってレナウン・ソングとして親しまれてきた。


【プロフィール】
佐々木 八十八(ささき・やそはち)1874年生まれ。
現在のレナウンの前身を作った男であり、物事を考えるスケールの大きさや発想の斬新さにおいても、人並みの人とは次元の違う異能の人であった。