神も仏も、むろん他人も頼るに足らず、
頼りになるのは自ら自身以外にない


 筆者は以前エーザイの管理者研修を担当していた。その時、エーザイのフィロソフィーマークのhhc(ヒューマン・ヘルスケア)がナイチンゲールの直筆のサインをもとに組み合わせデザインされていると知り驚いた。
 そういえば創業者の内藤は戦時中近衛歩兵隊に入ったが片目を閉じて銃を撃つことができないことから看護卒にまわされたと聞く。
 博愛を旨としたナイチンゲールスピリットは筆者も大好きな思想である。
 負傷して苦しむ戦友たちを目の当たりにしてその痛みを和らげる薬と、ナイチンゲールのような献身的な介護活動や心根が大切だと内藤の魂はゆり動かされたに違いない。そのことが内藤の生涯を薬の道に歩ませたものと思われる。
 内藤は、人には四つの人生があると語る。第一の人生は生まれてから実社会に入り、結婚するまで。第二は結婚して定年になるまでで、この間は〝修行の時代〟。第三は定年後はそれまでの知識や経験を生かして確立する人生。内藤はそれに第四を加え、「第四の人生こそが、社会への奉仕精神であり学問の尊重という崇高な次元である」という。
 田辺製薬を勤め上げ、定年後にエーザイを創業した内藤の人生はこの第四が立派に実ったものといえよう。


【プロフィール】
内藤 豊次(ないとう・とよじ)1889年生まれ。
田辺製薬の常務・新薬部長の時代は「エビオス」など一世を風靡する製品をつくり、田辺の大黒柱の人物であった男だが想いを抱いて定年後にエーザイを創業した。