「積羽沈舟」(せきう、ふねをしずむ)という諺があります
羽のように軽い細やかなものでも、これを重ね積み上げていくと、やがて舟を沈めるほどの力になるんだということであります


 筆者は山城章先生((故)一橋大学名誉教授)と「経営道フォーラム」を立ち上げる時、茂木に発起人になってもらった。筆者は何度か茂木に面談し指導を受けたが、一言一言には重みがあり、強烈な存在感のあるカリスマ企業家であった。
 当時の山城章の勉強会には茂木のご子息・友三郎も出席していた。キッコーマンが欧米に日本の醤油を導入して世界基盤をつくったのは啓三郎、友三郎親子の輝かしい実績である。以下に啓三郎の新入社員に贈る言葉を紹介する。
 「諸君には〝報恩の生活を送れ〟と申し上げたい。諸君のこれまでの生活は、人の世話になり社会の世話になって、多くの人々から恩を受けて今日に至ったものであります。その恩に報いる生活を送る決意をしてほしい。国家の恩、両親の恩、先生の恩・・・・。この機会に孝行する決意を固めて、多くの人の期待にこたえていただきたい」
 〝報恩〟をしっかりと社員に伝え、社風としてもお客様や仕入先の方々の“恩に報いる活動”を促していた茂木の言葉である。
 「〝初心忘るべからず〟。初めに決心してもそれを貫くことは、容易ではない。だんだん生活に慣れてくると、油断も奢りも怠りも、時に不平不満も起きてくることは、人生の避け難き通弊としてこれを戒めた言葉である」


【プロフィール】
茂木啓三郎(もぎ・けいざぶろう)1899年生まれ。
啓三郎は人望のあった、飯田庄次郎の次男として生まれるが茂木家の養子に入り「産業魂」に徹する、という精神のもと、今日のキッコーマンの基盤をつくりあげた。