人間性の基本はたった一つ
他人を思いやるということ


 弘世は創業の精神ともいうべきものを義父・助太郎から学んだという。結婚して間もない頃、助太郎夫婦と現夫婦とで富士五湖めぐりをした。自分たちが予約してあった遊覧船に団体客が乗っている。秘書が「下船させましょう」と言ったら、助太郎は「この人たちの中にはうちの契約者も何人かいるだろう。何もわれわれは先を争っていく必要はないんだから、次の船を待つことにしよう」と言ったとされている。
 それを見て弘世は「大衆を相手にする商売」とはいかなるものかを学び喜びを感じたという。「ですから、僕は駅で混んでいると、最後に乗るんですわ。なるたけ他人の人を先に乗せて、もう出発という直前に乗れればそれでいいと思ってね」
すべての人がお客様かもしれないので“譲る”という行動は素晴らしい。
 「私は人間性の基本は一つで、それは他人を思いやるということでないかと思っています。地位が上になればなるほど、その心を厚くしなければ下の者の苦しみは大きくなるばかりです。立場が人間の器を創るということはありますが、器に合うものかどうかという問題があります」
 「器さえよければ何でもいいってわけじゃないと思う。しかし、中身がよければ器の方でそこへ行きたいと思ってるんでしょうね」と弘世は語る。 


【プロフィール】
弘世 現(ひろせ・げん)1904年生まれ。
日本生命保険の創業者である、助太郎の四女の婿になり昭和二十三年、四十四歳の時より三十五年の長きにわたり社長を務め、現在の日本生命の基盤を作る。