商人は世間より一歩先に
進む必要がある
但し一歩だけでよい
何歩も先に進みすぎると
世間と離れ予言者になってしまう


 服部は時計王国を築いた男である。常に一歩先んずる経営、しかし片足はしっかり現実を踏まえ地につけていた。輝く目は夢を追い、常に前を向く先見性を持つ。
 服部の説く三つの商売条件は、第一に小投資で始められるもの、第二に将来大いに伸びる見込みのあるもの、第三は、地道にコツコツやって何よりも努力次第で発展できるものである。
 また服部はこうも述べている。「すべての商人は、世間よりも一歩先に進む必要がある。ただし、一歩だけでよい。何歩も先に進みすぎると、世間にあまり離れて予言者に近くなってしまう。」商人が予言者になってはいけないと語る。
 彼は同業者が仲間内で商売している時、すでに外国商館から仕入れを始めた。そしてほかの業者が外国商館取引を始める頃には直接輸入を手がけている。そして次にライバルが輸入を始めた頃には、彼は自分達の手で時計をつくり始めていた。
 「服部さんは危機の時さえも好機に変えてしまった。“時の利”を自在に取り組んだ経営者であった」と元経団連会長・石坂泰三から賞賛されていたという。

【プロフィール】
服部 金太郎(はっとり・きんたろう)1860年生まれ。
時計修理技術の修業をして、二十一歳で服部時計店を開業、一介の個人商店から出発し、全国の時計生産の七○パーセントを占める大会社へと発展、わが国の時計産業を大成させた“時計王”。