髙梨仁三郎
挑戦と忍耐と先見でコークの時代をひらいた男


髙梨仁三郎とコカ・コーラの出会い


髙梨仁三郎―名門家に生まれながらも決して現状に満足しない男だった。
酒類問屋小網商店の社長であった髙梨仁三郎のもとに以前から面識のある久保山という人物が、やってきた。
コカ・コーラは基地でも米兵がよく飲んでましてね。米本土や世界の主だった国でも大変売れています。」と彼はもちかけてきた。
びんを手に取り興味本位で味わってみた仁三郎はそのときの印象を「一種の薬くささを感じたものの、これまで経験したことのない味だった」とのちに語っている。これが仁三郎とコカ・コーラとの運命的な出会いだった。


斬新で合理的な商売のやり方を日本に導入し広めたい


当時の日本におけるコカ・コーラのボスはスペンサーという男であった。
仁三郎は何度かスペンサーを訪ね、そのたびに彼はコカ・コーラの歴史や現状、経営理念、販売方法等について詳しい説明をしてくれた。
「フランチャイズ制」「ルートセールス方式」「現金主義」等はこれまでの日本の商慣習には全くなかった斬新で合理的な商売のやり方であった。
長年、問屋制度の不合理、矛盾に悩み苦しめられてきた仁三郎はそのコカ・コーラ商法に魅了され胸躍った。『なんとしてもこれを自分の手で日本に導入し、広めよう』と決意したのだった。


損得より信頼で結ばれたビジネスは長続きする


「日本のコカ・コーラ事業の父」と呼ばれた髙梨仁三郎。
仁三郎が「コカ・コーラ」の将来性に着目し、フランチャイズ権の取得に乗り出したのは昭和27年。そして、市販が開始されたのは昭和36年である。苦労の末、アメリカから販売権を獲得したのだ。その間、実に9年間。この間の様々な体験から髙梨は、商談の心がけについてこのように説いている。
「誠の一字。まごころで人に接する以外ない」
相手は誰であれ、損得より信頼で結ばれたビジネスこそ「長続き」するのである。
企業を発展させるためにはこの「長続き」する取引相手を持てるかが鍵なのだと思う。


経営理念・行動指針(当時)


創業の想い
ひとによろこびをあたえ 一緒に幸福になろう

経営理念
私たち東京コカ・コーラグループは、
人と人との絆を大切に、
あらゆるシーンでさわやかさを演出し、
うるおいのあるくらしづくりに貢献します

行動指針
私たちは、お客様の立場になって、自ら工夫し素早く行動します
私たちは、持てる力をフルに燃やし、 粘り強く可能性に挑戦します
私たちは、互いを尊重し熱き心で語り合い、活力ある職場をつくります
私たちは、地域社会と環境に気を配り、感謝の心で尽くします


仁三郎の口癖


口癖のように「コカ・コーラはワンオブゼム。新しいことに挑戦しなければダメだよ」と語った仁三郎。常に危機感を持ち挑戦し続ける姿勢は、小網商店時代の苦い経験によって培われたといえよう。


市川覚峯選 高梨仁三郎十ヶ条の語録


一、「人生は一冊のノートである」
しっかりした心を持って立派な人生のノートを作る
二、企業の永続はその存在する地域社会の協力なくしては困難
三、常に世の中の人々の同意、もしくは好感なくして永続は考えられない
四、人生を大切にするという点から自分に適した人生を選ぶべき
五、一番確実な道は一本道を歩くこと
六、「勉強は常に忘れずに」どこまでも自分自身を築いていくことが大事
七、毎日毎日愉快に、そして実りある一日一日を過ごすことが大事
八、この商売を大切にしていくという心を忘れないでいけば、どんな困難も切り抜けられる
九、悔いのないように最善の努力をするのが幸福への道につながる
十、強い商品を持っている我々は、強い自信を持って団結し、どんな難局にも体当たりをしていく気概を持つこと


高梨仁三郎(日本コカ・コーラ)◆「真心で接する」 人と人とをつなぐサービスが愛される企業を生む