同じ量を運べば、小口は大口の三、四倍もの収入になる
大量の小口を集めて、スケールメリット
(規模の利益)を追及すれば必ず成功するはずだ


 小倉が最初に、小口荷物の取り扱いを考えたのは昭和四十八年の第一次石油ショックの時であった。小倉はアメリカのUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)という運送会社が小荷物で急成長していることを実際に見て研究していた。
 「当社はこのままでは駄目になる。小口荷物に進出しよう」と取締役会で唱えたが他の役員は全員が猛反対。「小さな車で路地裏まで小口荷物を一つ一つ配達したのでは労多くして利は少ない」というのである。
 当時のヤマトはデパートなど安定した大口から大量の受注をしており、そのほうが効率がよいとだれしもが言う。
 しかし小口配達となると荷主は不特定多数で零細だ。一方の大口荷主は大量をかさに着て値切りに値切る。それに比べて家庭の主婦は、規定料金が何百円になっているといえば値切ることはしない。小口は三~四倍の収入になるというわけだ。
 多くの人が、とても事業として成り立つとは思わないと語った宅急便事業である。無謀ともいえた小倉の挑戦のおかげで私たちは今、毎日の生活を便利に幸せに導いてもらっている。


【プロフィール】
小倉 昌男(おぐら・まさお)1924年生まれ。
皆が「絶対に採算合わないからやめろ」と言った宅急便事業をやりぬき、私たちの便利さを実現してくれた宅急便の生みの親。