「信は万事の本を為す」
頭を使って仕事しなさい
自分の考えを仕事の中に活かしなさい


 筆者は山種美術館の山崎富治元館長と親しくさせていただいた。富治元館長のお父さんは山種証券の創業者の種二であり、株の取引で大儲けしてその時集めた数多くの美術品が今、山種美術館に公開されている。
 天才相場師・山埼種二の思想形成に影響を与えたのは種二の祖父であったという。上州、山崎家の十一代目の兵衛は、頭のよさそうな孫の種二に向かい、いつも口説いていたそうだ。
 「働き一両、考え五両。種二よ、しっかりやっておくれ。お前以外にこの家を建て直すものはいないんだよ。」これが祖父の繰り言であったという。
 「手足を使っての働きはせいぜい一両、それが頭の働きひとつで五両にもなる。元手が少なくとも、いまは手足の力が及ばなくても、頑張り続ければ必ずモノになる。大丈夫だ」
 「怠ける奴はろくなことを考え出したためしがない」、「頭を使って仕事をしなさい。自分の考えを仕事の中に活かしなさい」兵衛は素晴らしい“家庭教師”であった。ここに山種精神の根源が感じられる。
 富治元館長も父の考えを受けた人柄の素晴らしい人物であった。


【プロフィール】
山崎 種二(やまざき・たねじ)1893年生まれ。
城山三郎が書いた『百戦百勝』(のモデルとなった“天才相場師”山崎種二、 人呼んで〝山種〟という男 は蠣殻町の常勝将軍とうたわれた。