堅い板に穴をあけるとき、鉄の棒でやってもあかないが、キリでなら簡単に穴があく
「一点集中、しぼり込み作戦」こそがわれわれ中小企業の戦略である


 競争が激しい時代、専門を掘り下げて、他社に負けない専門力をもっていない企業は変化の波に呑み込まれてしまう。競争が厳しい時代であればこそ独自の技術、独創的な商品、他社に負けない販売ルートがないと生き残ることはできない。
 「中小企業はもてる力が小さい。だから一つの目標をはっきりさせ、それに向かって徹底して追求していく以外に大企業に勝てない」
 鬼塚はこうした考えを創業以来、実践し続けている。昭和二十四年、たった四名の社員でバスケットシューズの生産、販売から始めた。
 一心にバスケットシューズの改良、品質や機能を追求し、その販売に心を砕き続けた。他に眼も心もいかない。
 彼は『一点集中、しぼり込み作戦こそが弱者の戦略である』という考えを実証したわけである。
 鬼塚は、このあと同じ戦法でマラソンシューズに挑戦して成功した。そして一つの商品分野でトップの座を手に入れるとまた次の商品で同じやり方で一点集中し、トップになる。これを繰り返しアシックスはスポーツシューズの総合メーカーへと発展してきたわけである。


【プロフィール】
鬼塚 喜八郎(おにつか・きはちろう)1918年生まれ。
スポーツ用品の総合メーカー、アシックスを創業し、『一点集中、しぼり込み作戦』の弱者の戦略を一貫して追求し、 〝世界のアシックス〟に育てあげた。