最高の技術を活かして作り
大衆が喜んで利用できる
価格でなければ事業の意味を失う


 筆者が主催していた「経営道フォーラム」(山城経営研究所)の受講生であった村上興雄が静岡パイオニアの社長になった時、社員教育のお手伝いをした。村上は「一、開拓者精神を発揮すること 二、社会から信頼と尊敬を得ること」といったパイオニアの理念を魂に宿した生粋のパイオニアマンであった。村上が創業者・松本望の心を大切に現代の経営に生かしている姿に感動したものだ。
 松本の父はキリスト教の伝道師であり、松本は「幼い時から勤労の精神を養っておかねばならぬ」という父の指示で、小学校三年生の頃から新聞配達をしたり、夜は床屋の見習いにも出た。卒業してラジオ輸入商の高木商会に勤めていた時は、「あなたの人柄を見込んで、独立資金を援助しよう」と言われ、迷わず松本は「福音商会電機製作所」を設立した。
 福音とは「キリストによって人類が救われる」といううれしい音信のことである。クリスチャンの松本は『音によって社会貢献する』という信念から、この社名をつけた。「わが社は音の専門メーカーである。音をもって社会に貢献することを忘れてはならぬ。そのためには最高の技術を活かして大衆が喜んで利用できる価値でなければ事業の意味を失う」と訴え続け夫婦二人の家内工業から大きく発展させた。

松本の作った「社是」
「第一に製品の品質に重きを置き、第二に時期のねらいを誤らず、第三に原価の低減に努力しなければならない」 


【プロフィール】
松本 望(まつもと・のぞむ)1905年生まれ。
キリスト教の伝道師の家で育った松本は「いい音を福音」し、多くの人を喜ばせようという志でパイオニアを発展させた。