商売には、いろいろな「おかげ」
というものがあるものだ
商人ならこのことを絶対に
わすれてはいけない


 「商売には、いろいろな“おかげ”ということがあるものだ。商人ならこのことを絶対にわすれてはいけない。天職には貴賤の別はない。人間はこの世にある限り、自らの全力を尽くして天職を全うしなければならない。そのためには人の信を得ることがもっとも大切なことである」
 黒田は帳簿の表紙づくりの仕事を〝天職〟と考えたからには、「決していい加減な品物はつくらない。それが客に対する真のサービスである」として、材料一つ選ぶにしても吟味、検討を重ねて真心を込めてつくりあげた。
 彼の作った作品は決して安いものではなかった。しかし黒田は「いい製品は結果として安くなる」という確固たる信念を抱いていた。そして量産を好まず、あくまでも手づくりの高級品を主眼とした。
 黒田の会社は創業から約四十年もの間、逆境に次ぐ逆境であった。
 しかし彼はそれに決して屈することなく、仕事に情熱を傾けた。それにより黒田の評判は口コミで伝わり、信頼の輪は広がり、同業者の中ではトップの座に駆け上がっていくことになる。
 ※当時の社名のコクヨは『国誉』、つまり〝国のほまれ〟と表していた。

【プロフィール】
黒田 善太郎(くろだ・ぜんたろう)1879年生まれ。
帳簿の表紙を作る仕事を天職として創業。戦争により店も工場もすべて焼失するが復員した社員の呼びかけで廃墟の中から再スタートし、今日のコクヨの基盤をつくる。