“坂の上の雲”を目指して
坂道を上る段階では
大きな危険は少ない
しかし山頂に近づくと
予期しない困難が増してくる


 筆者は経営コンサルタントとして各社の改善活動に携わっているが、危機感のない職場ほどイノベーションが起こしにくいことを日々実感している。
 経営幹部の研修である「経営道フォーラム」に当時NECの会長だった小林を講師としてお招きし、次世代を担う経営者にお話ししていただいた。
 その時の小林の『安定の不安定、不安定の安定』という言葉が今でも心に残っている。つまり企業は安定してきて皆が安心してしまうと、長い眼で見ると不安定になってしまう、大企業というものは、少しぐらい不安定のほうが社員も危機感を持って、緊張して取り組むから長期的に見ると安定するというわけだ。
 おりしも「大企業病」という言葉が飛び交っていた時代でもある。
 乱気流の中を飛び慣れているパイロットの方が腕はいいし、また日本海の荒波の中を船を操っている船頭の方が船を操る腕は上がるというものだ。
 小林が言うように、山頂に近づいて困難がやってきたときはいつでも対処できるよう常日頃から危機感を抱き、腕を磨いて創造的に挑戦し続ける企業の方が永続的に発展するというものだ。


【プロフィール】
小林 宏治(こばやし・こうじ)1907年生まれ。
日本屈指の理論派経営者として財界をリードする。高度情報化社会の到来を前にC&C(コンピューターとコミュニケーションの融合)という言葉を流行させ、NECのみならず産業界に影響を与えた。