儲かるときにあきらめることが
商売の要諦で『ひと儲けしてやろう』
という欲望が先立つと何事も
完成することができない


 「私の周囲には算盤はずれの交際をしていただく方々が多い。儲かるときにあきらめることが商売の要諦で『ひと儲けしてやろう』という欲望が先立つと何事も完成することができない。しかし、平生よく勉強をしていて、ほかでできないようなものを、たった一つ発見するなら、その人は成功するであろう」
 早川語録は、その人柄と人生哲学を示している。
 「私たちの事業の完成は、個人の野心や、自己満足だけであってはならない。その理念はより高い社会への奉仕と感謝の実行を貫くものでなくてはならない」
 早川は涙なくしては語れないような境遇から身を起こし、知恵を絞りシャープペンシルやベルトのバックルを発明し、辛苦の末、シャープを創設している。早川は苦しい時代にいろいろな人々から差し伸べられたあたたかい手のぬくもりを忘れることなく、常に報恩の生涯を送った人間である。
 どんな状況の中でも早川は「如来蔵」として生き抜いた。如来蔵とは悪いことずくめで八方塞がりのように思える状況に陥ってもその内部の奥深いところには必ず如来様(つまり善)がおわします、という意味である。

【プロフィール】
早川 徳次(はやかわ・とくじ)1893年生まれ。
穴をあけずにバンドを占めるバックルを発明、その後、「早川式金属繰り出し鉛筆」、つまりシャープペンシルを発明したことで有名。アイデアで日本初の商品を次々に出し、シャープの基盤をつくる。